速水守久 子孫に伝わる物語

この記録は学術発表ではありません。大正6年生まれのお祖母さんが、思い出してはとつとつと語ってくれた家伝、400年前、別れ別れになった子孫たちが再会し、ようやくつながってきた歴史、あの日、大坂夏の陣の物語です。

ああ、そうか、あれは出来麿だ

わたしが中学生だった頃、大坂城京橋口三の丸から『秀頼の首』と言われる頭蓋骨が出土したと大きく話題になった。正確に言うとその遺骨は出土ではなく、丁寧に埋葬されていた。その頃まだ『速水家の歴史』を継承して.語ってくれた祖母が生きていた。祖母は草創期の二松學舎を経営から支えた速水柳平の孫である。速水柳平は時に二松學舎で助教を務め「日本外史」を教えていた。そんな速水柳平が語って聞かせていたことを、祖母は思い出しては、子である母や、孫の私に、ご先祖の歴史を語って聞かせてくれた。

そんな祖母が、『秀頼の首』が大坂城から発見されたとニュースで聞いたときは、『あれは、秀頼の首なんかではないわ・・』と言った。速水三男家の口伝では、『秀頼は死んでいない、守久が城落ちさせたから生きていたはずだ、宗久(守久次男)とその母も一緒に鹿児島の島津家を頼ったはずだ』と伝えられてきたから、そう言ったのだとばかり思っていた。

速水守久が、姪っ子の千姫を徳川陣屋へ送り届けるときに、大坂夏の陣の最中、元服したて14歳そこそこの速水盛久(幼名=出来麿・守久嫡男)が愛馬にまたがりおとり作戦で出陣し、直後、赤子の手をひねるかのように徳川軍に一撃され戦死した。

千姫を送り届け、徳川陣屋から大坂城に戻った速水守久は、すぐに、宗久(守久次男)と守久正室、秀頼には守久が最も信頼する武将をお供につけて、京橋口より城落ちさせた。そして薩摩の軍艦に乗せて、薩摩に送り出した。その後、混乱の中、戦死した嫡男盛久(出来麿)の遺体を京橋口三の丸に埋葬した。

  1. 二十歳前後の若い遺骨(頭蓋骨)の下に生貝を敷き詰めてあったという理由は、速水甲斐守の『甲斐=貝』速水甲斐守守久の息子、出来麿の遺骨であることを記したかったからだ。
  2. そして庶民では決して持てない副葬品『織部焼の角皿』が添えられていた。守久三男(正室の子)は、元服後、父守久の遺言によって、越後で自らを『織部正』と名乗っていた。これについては村上藩にあった官職の呼び名ではなかったようであるし、村上城主堀直竒から領地をもらって帰農した後に、村人たちには愛称で『おりべのしょうさま』とよばれていたと過去帳に残っている。いつの日か、平和な時が訪れたら、織部焼にメッセージを託して、子孫には大坂城の先祖の遺骨を探しだしてもらいたかったのだ。だから、守久は遺言で、越後の三男には愛称として『織部正・おりべのしょう』と名乗らせたのだ。
  3. それと、秀吉が朝鮮出兵の後、古田織部大坂城内で焼かせていたという『唐津焼』。これは埋葬された遺骨の時期と、古田織部に所縁の身分の高い人物の墓、と特定できるようにという思いが感じられる。守久が古田織部の庵で茶を嗜んでいたことは、古田織部の茶日記で確かめられる。
  4. そして、副葬として、干し草を敷いた上に置かれた『洋馬の遺骨』だが、身分の高いものにだけが乗ることができた。守久は、嫡男盛久の愛馬を埋葬することによって、頭蓋骨の身分がわかり、出来麿のものと特定できるよう、いつの日か、子孫に探し出してもらいたいという願いが込められた、速水守久からの精一杯のメッセージである。秀頼は薩摩に落ち延びて生きたのだから、秀頼の首ではありえないのである。じゃ、いったい誰の頭蓋骨なのか、守久の嫡男・出来麿の遺骨である。
  5. 守久は、混乱する戦場の最中、戦死した出来麿の首には生貝を敷き詰めて、その息子の愛馬には干し草を敷き詰めて埋葬した。黄泉でこれからも食事に困らないようにとする、せめてもの親心であったと偲ばれる。粗削りの花崗岩で石柱とし(長さ80センチ・15センチ角)平和になったいつの日か、子孫に探し出してもらう日を待っていたのだ。

守久の血を受け継ぐ子孫はここにいる。当然、速水盛久(出来麿)と同じDNAをもっているのだから、昭和の時代に『秀頼の首』と確証のないままに発表されたものを、どうかもう一度、科学的に鑑定してもらいたい。そうすれば、あの首は、間違いなく『出来麿の首』であることが証明されるはずである。子孫として先祖の御遺骨は供養してあげたいのである。

 

それから、おまけで書いておくが、初代村上藩が堀直竒亡き後、幻の村上藩となって御取壊しになった理由には、大坂夏の陣で伏せられた、徳川が暴かれたくない秘密がある。何故、水野隊の家臣として夏の陣に参戦していた堀直竒ばかりが徳川に優待遇され、家光の代まで力を持つことになったのか。大坂夏の陣で公表できない徳川の秘密をつかんだ者こそ、堀丹後守直竒なのである。それはまた別のお題で書こうと思う。